食塩の製パンにおける作用

食塩の製パンにおける作用

製パンにおいて食塩は欠かすこのできない原材料の一つです。

 

一部では無塩パンなど腎臓病患者のためのパンや、イタリアの伝統的なパンにトスカーナと呼ばれる
ほとんど塩を配合しないパンが存在していますがほぼ例外とみてよいでしょう。

 

それでは、製パンにおける食塩の及ぼす作用を中心に見ていきましょう。

 

食塩の作用

 

製パンにおいて、食塩の働きは大きく2つあります。

 

  1. グルテンに作用し製パン性を向上させる
  2. 風味を豊かにし、味わい深いものにする

 

まずは、1つ目のグルテンの引き締めについて詳しく見ていきましょう。

 

酵素の抑制作用

 

仕込みの時

 

「塩を入れ忘れた!」

 

なんて焦ったことありませんか?

 

でも、安心してください!

 

大抵の場合気づいてからでも塩を入れ5分程度ミキシングできれば
通常の生地の状態に戻ります。

 

 

フランスパンなどでは、後塩法といってわざわざミキシングの途中で塩を投入する方法もあります。

 

塩を入れ忘れたことがある方はわかると思いますが、非常に生地が切れやすくベタついたものになります。

 

 

これはタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の働きで起きます。

 

塩を配合するとこのタンパク質分解酵素の働きが抑制されます。

 

そのためグルテンが生地中に健全に存在できるためベタつくことなく製パン性が向上します。

 

たんぱく質が分解されるということは、少し大袈裟に言うと、薄力粉を使ってパンを焼いているのに
近い状態ということができます。

 

また、酵素はゆっくり作用するため、ミキシングの段階ではリカバリーできるということになります。

 

 

スポンサードリンク

味覚への影響

 

塩の全く入らないパンは普段、塩に慣れ親しんだ食生活を送っている現代人にとっては
非常に食べづらく感じます。

 

私も塩を入れ忘れたパンを店頭に並べ販売してしまった苦い経験があります。

 

当然、クレームがあり全品回収、返金、謝罪と対応しなければならなくなりました。

 

お客様に謝罪する中、あるお客様から

 

 

「余りまずかったので、イヌにあげたけどイヌもたべなかった!」

 

とお叱りを受けました。

 

それほど衝撃的な味の変化を感じます。

 

塩が貴重品だった昔は、パンには塩を配合していなかったようです。

 

フランスでも、18世紀後半以降に塩を入れるようになったようです。

 

現在の私たちのように、塩味に慣れ親しんだ者にとっては飲み込むのに苦労するほど違和感を感じる味ですが。

 

イタリアのトスカーナ地方には、塩を配合しないパンが現在も残っているが非常に稀有な存在でしょう。

 

日本でも腎臓病をわずらった方々のために、無塩パンが作られているようであるが、製パン性や味の問題で少なからず工夫が必要になってきます。 

 

アイデアとしては、生地のpHを下げることで酵素の働きを阻害するなどの方法が有効だとおもいます。
レモン汁やビタミンCなどの配合や製法では優しくパンチを入れたりなどが有効でしょう。

 

塩の添加量

添加量としては、1%〜2.2%の間で配合される場合が多いです。

 

基本は、2%を超えない程度の配合ですが、吸水を多くしたフランスパンなどでは、2%では、薄味に感じることがあり、
そのような場合2.2%まで引き上げると、調整できます。

 

また、近年はさまざまな塩が流通しており、消費者の注目も高まってきています。

 

しかし、塩以外の成分も混ざっており製品に影響を及ぼすこともあるので注意が必要となります。

 

吸水の調整や添加量の見直しで解決できるので、

 

塩を変えたときは、配合の見直しも検討すると良いでしょう。

 

 

塩分摂取量

 

日本人は世界的にみると塩分を多く摂取している傾向にあるという報告があります。

 

統計によると、一日に平均すると男性が11.1g女性が9.4gという厚労省のデータもある。

 

塩分の摂取過多によって引き起こされる健康障害も多く知られています。

 

高血圧の予防のために男性8.0g、女性7.0gという目標値が掲げられています。

 

われわれパン職人にとってはパンに食塩を使用していることは当然わかっていますが、
消費者の中にはパンに食塩が使用されていることがわからなかったり

 

極端に多く塩を配合しているのではないかと不安がる人もいます。

 

平均的な値ですが、ここにパンに含まれる塩分の量をご紹介しておきます。

種類 塩分相当量
6枚切り食パン1枚 0.8g(1.3g)
ロールパン 0.7g(1.2g)
クロワッサン 0.7g(1.2g)
ベーグル 0.7g(1.2g)
フランスパン2切れ 1g(1.6g)

2015年版日本食品標準成分表より(カッコ内は可食部100gの塩分相当量)

 

このように極端に多いわけではないが習慣的にスープや加塩バター、マーガリンなどとたべる場合が多く

 

総合的に一食として見た場合塩分過多になることも考えられる。

 

対応としては、無塩バターや減塩マーガリンを使用したり、スープを薄味のものにすることで塩分摂取量を減らすこともできます。

 

文:佐藤 俊昭

 

 

 

 

おすすめオンラインショップ2店舗ご案内

↓小分け販売のパイオニア↓

TOMIZ(富澤商店)オンラインショップ



↓かわいいラッピング、製菓・製パンのトータルコーディネイト↓

お菓子・パン作りの総合サイトcotta

 

合わせてお読みいただきたいページ
パン職人の実用知識|小麦粉の基礎知識、分類など
小麦粉の分類方法、グルテンの性質や保存方法について詳しく解説していきます
イーストの性質、分類、保存方法
基本的なイーストの働きや、イーストの分類、保存方法について解説していきます
砂糖の基礎知識
製パンにおける砂糖の知識について解説していきます。
油脂の基礎知識
油脂について、働きや、保存上に注意点について解説します。
卵の基礎知識
卵について、製パンに必要な知識について解説していきます。
牛乳、脱脂粉乳の基礎知識
製パンにおける、牛乳および脱脂粉乳の知識を解説していきます。
モルト|モルトの正体と効果
モルトの基礎知識を解説していきます。使い方や使いどころ、各メーカーの違いについて解説